多摩川の上流域における麻産業の可能性と地域振興

1997年7月23日丸井英弘

。多摩川と麻産業復活の重要性
多摩川流域は、古来から麻の栽培地であった。摩とは、麻に手を加えることを意味している。そして、調布とは麻布を織っていた所という意味である。
そして、この日本の伝統的な麻織物が、第2次大戦後の石油化学製品の普及によって衰退してしまい、このことが多摩地域の産業の衰退にも繋がったのである。
しかしながら、地球の温暖化・環境破壊・環境汚染・食料危機・エネルギー危機など環境問題が深刻化するなかで、最近麻の持つ環境上の有用性が、アメリカ・カナダ・ドイツ・オランダ・イギリス・オーストラリアなどで注目されている。
麻産業は、日本における食料とエネルギ−の自給自足そして環境保全を可能にするものである。また、過疎地域において環境保全型の産業を興すことが可能であり、過疎問題の解決にも繋がるものである。多摩川の上流域は、過疎問題には直面しているが、麻産業を現代的に復活させることにより、地域社会の活性化をうながすことができる。

2。麻産業の重要性について
1)バイオマスエネルギーにおける麻の有用性
人類が排出する温室効果ガスによる地球温暖化問題は、最も深刻な環境問題をいわれている。そして、温室効果ガスの中でCO2は最も大きな影響力を有しその排出量の7割以上は化石燃料の燃焼に起因すると考えられている。したがって、地球温暖化を抑止するためには、エネルギーシステムからのCO2排出量の大幅は削減が必要である。そして、バイオマスは生育過程においてCO2を吸収するので、燃焼に伴うCO2排出量はゼロとみなすことができるのである。
 バイオマスは、植物が光合成によって、太陽光と二酸化炭素から作り出したものですが、植物が一年間に地球上で成長した量、すなわち一次生産量は、石油換算で約800億トンに相当し、全世界で消費しているエネルギーの約8倍に相当するといわれています。
 麻は、その生育期間が約100日であり、他方木材の場合にはその生育期間が50年から100年(短期サイクルのハイブリッド・ポプラでもその生育期間は5年である)ですので、麻をバイオマスエネルギーとして使えば、木材よりはるかに有利にバイオマスとして利用できると思います。また、バイオマスのために植林をすれば、食料生産のための農地が減少することが考えられるが、麻の場合には、その種が有用な食料源になるので、そのようなことはない。逆に、麻の生産は、バイオマスエネルギーと食料が同時に生産されるという有利さがある。
2)種・茎の有効利用と人類の健康・環境保全
 種に含まれている有用な成分の利用や茎に含まれているセルロースの有効利用は、人類の健康とゴミ問題の解決ためにも極めて大切である。
 麻の種からは、蛋白質・ビタミン類・リノール酸など人体に有用な成分がふくまれており、食用・医療用などの各種の製品が生産できる。また、麻の種からとれるオイルは、ディーゼルエンジンの燃料になる。そして、その麻の種からとれるオイルには、大気汚染の原因になる硫黄分が含まれていないので、環境対策上有用である。
 茎に含まれているセルロースからは、ダイオキシ ンを発生しない環境上安全な紙や建築材料を生産できる。また、土に分解可能なプラスチックの生産できるし、葉や茎からはバイオマス燃料も生産できるといわれている。
 つまり、麻の有効利用によって、木材や石油から作られるすべての製品が生産できる可能性があり、かつ環境汚染を解決できる可能性がある。
さらに、麻の根は、自然に土地を耕し、土地の浸食や土砂崩れを防ぐといわれている。
3)麻産業の活性化と雇用確保
 麻から生産をすることができる製品は、2万5000から5万にものぼるといわれている。麻産業の活性化は、農林業の育成と雇用確保につながる。