NHKの大麻報道の是正を求める裁判の目的

[ 出来ればプリントアウトして、ゆっくりとご覧下さい ]


1996年8月17日

NHKの大麻報道の是正を求める裁判の目的

       弁護士丸井英弘

 1), 私は1974年4月から弁護士登録をして弁護士としての活動をしてきましたが、1975年から現在までの21年間に約150件ほどの大麻取締法違反事件の弁護を担当してきました。そのなかで痛感することは、大麻が日本に古来から親しまれてきた麻のことではなく麻薬であると誤解している人が多いということであります。 このような誤解が生じている大きな原因としては、マスコミが大麻に対する正確な情報を提供していないということにあると思います。
 2),ところで、NHKは、総合テレビにおいて、一九九六年三月二七日午後九時三〇分から三〇分間にわたって「若者に広がる大麻汚染」と題する番組を報道しました。 この番組は、表題そのものが大麻汚染という言葉を使い、また番組の中でも大麻が麻薬であるとの見解にたって報道しています。  しかしながら、大麻は古来から我が国を始め世界中で繊維用、紙用、薬用、燃料用に使われてきた人類にとって貴重な植物である麻のことであり、麻薬ではなくまた汚染と評価される有害なものではありません。したがって、この「若者にひろがる大麻汚染」と題する番組は、大麻について、無害論や有益論があるのにもかかわらず、一方的に有害論の立場にたって報道したものであり、放送法第三条の二 一項三号「放送は真実を曲げないですること」、放送法第三条の二 一項四号「意見が対立している問題については、出来る限り多くの角度から論点を明らかにすること。」、放送法第四四条一項三号「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること。」及び放送法第一条二号「放送の不備不党・真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」に各違反しております。  さらに、この番組では、大麻輸入事件において、未だ捜査及び判決前の段階であるのに「大麻約一、三トンを暴力団が輸入した」と断定して報道しています。この様な断定的報道は、「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の原則に違反するものであり、憲法第三一条(法定の手続の保障)や憲法第三二条(裁判を受ける権利)に違反し、また放送法第一条二号、同法三条の二 一項三号・四号にも違反するものであります。
 3),そこで私としては、大麻に対する正確な情報の提供が、大麻取締法の当否を考える上で極めて大切であると考え、NHKに対してこの番組の訂正を求める裁判を提起することにしました。この裁判の目的は、大麻とは「汚染」と評価され、その取扱を刑事罰でもって規制しなければならないものなのか どうか、逆に大麻は 人類にとって有益な植物ではないのかを明 らかにすることにあります。  また、本裁判においては、報道のあり方、薬事行政のあり方、刑事罰や刑事裁判のあり方を、公開の法廷において冷静に議論をしたいと考えています。
 4),大麻は、インド中国アフリカ中近東など世界中で貴重な医薬品として過去何千年もつかわれてきたのでありますが、日本でも第二次大戦前は、インド大麻たばこが喘息の薬として販売されていたし、最近の研究によれば、大麻の成分であるTHCが癌、エイズにも効くのではないかといわれる松果体 からでるホルモンのメ ラトニンの分泌を通常の4000%もうながすということが明らかにされています(参考文献「マリファナ」グリーンスプン著青土社刊、「奇跡のホルモン メラトニン」ラッセル著講談社刊)。 また、大麻から燃料(茎や葉を発酵させるとアルコールが生成され、また種の油分に含まれている油も燃料に使えるので、石油や原子力に替わるエネルギー源になりうる)、環境上安全な紙や建築素材(麻の茎を原料として有機塩素による漂白を必要としない紙が作れる。なお、今から一二〇〇年程前の西暦七七〇年頃に中国で作られた仏典は麻から出来ているし、アメリカでも独立宣言の草案や紙幣が麻の茎から作られた。また、1940年代には、アメリカのフォード社が麻の繊維を素材にして自動車の車体を制作している。その車体は、鉄より軽くて丈夫だとのことであった。また、麻の茎から固化剤やプラスチック製品ができるともいわれている。)、栄養食品(麻の種には良質なタンパク源・繊維・ビタミンB1B2などが含まれており、それを使ってトーフなどの栄養食品ができる。七味唐辛子の中には、麻の種がはいっています。また、種の油は皮膚の健康に良いという報告もあります。)など人類にとって有益な物が生産できます。  このような有益な大麻は、規制するどころか第二次大戦前の日本の様に、その栽培を奨励することが必要ではないかと思われます。それが農業の活性化と熱帯林の伐採の禁止や空気の浄化(大麻には、木と同等以上の炭酸同化作用があるとの見解もあります。にもつながる可能性があるのではないかと思われます。  なお、多摩川とは麻が多く栽培されている川という意味で、多摩川べりには川崎市麻生区という地名も残っている程です。大麻つまり麻は武蔵野国の特産品であった歴史があり、調布という地名も麻布に関係しているものであります。さらに伊勢神宮のお礼のことを大麻といい天照大神の「みしるし」とされています。つまり大麻は神道にとってなくてはならないものであり、また修験道では護摩を焚くという儀式がありますが、大麻も使われていたと思われます。さらに、日本では、昔から麻は丈夫で根がよく張ることから幸せを呼ぶものとされ、麻模様の産着を子供に着せる 習慣は今日まで続いていると思います。
 5),そこで、大麻に対する正確な情報の提供が極めて大切 と考え、裁判の訴状と私の大麻に関する論文などを麻の紙で製本にして発行することにしました。表題は、「大麻とは何か。大麻取締法を問う」  また、裁判の経過 につきましては、ニュースレター「麻と人類文化」 を発行してそのなかで報告をしていきたいと考えています。 この、ニュースレターは、麻に関する様々な情報の交換の場にもしていきたいと考えています。

[ BACK TO TOP ]