平成9年(ネ)4307号損害賠償等請求控訴事件
準備書面(控訴の理由)
控訴人 丸井 英弘
控訴人 沼倉 英晶
被控訴人 日本放送協会
平成9年11月10日
控訴人本人・控訴人沼倉英晶代理人
弁護士丸井英弘
東京高等裁判所第12民事部 御中
記
控訴の理由は、次の通りである。
第1。争点整理が不十分であり、審理が十分になされていない。
1。原審の争点整理は、次の通りである。
「5 争点
本件の主要な争点は、1、民法723条、放送法4条、取材時の合意違反又は被告との間の受信契約に基づく、別紙誓約書の交付請求についての訴えの適法性 2、大麻が有害か否か 3、原告らの右誓約書交付請求の当否 4、原告丸井の慰謝料請求の当否である。」
2。しかしながら、この争点整理は極めて不十分である。
本件の基本的争点は、「大麻汚染」と表題をつけたことと番組の中でアナウンサーが大麻を「麻薬」と言っていることが、放送法第三条の二 一項三号「報道は事実をまげないですること」、放送法第三条の二 一項四号「意見が対立している問題については、出来る限り多くの角度から論点を明らかにすること。」、放送法第四四条一項三号「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること。」および放送法第一条二号「放送の不偏不党、真実及び自律を保証することによって、放送による表現の自由を確保すること。」に各違反しているのかどうかということであるが、この点の審理が全く行われていない。
また、判決で争いのない事実として認定されている次の放送内容が、大麻についての作用を正確に報道しているのかどうか、特に放送法第三条の二 一項三号「報道は事実をまげないですること」、放送法第三条の二 一項四号「意見が対立している問題については、出来る限り多くの角度から論点を明らかにすること。」に違反していないのかどうかについての審理が全くなされていない。
「これ(大麻)を使用しますと大変気分が高揚し、そして視覚や聴覚が過敏になるとされています。しかし、多量に服用しますと、幻想や妄想に襲われまして、精神錯乱状態になるともされています」
「大麻は大量に使用すると、幻覚症状を現したり体にも悪い影響を与えることを繰り返し説明しています」
「若者の身体に迫る大麻は、覚せい剤やコカインなど、より強い薬物への入り口にもなっています」
3。また、判決は、「大麻が有害か否か」を争点としているが、これは、本件での争点ではない。
本件の基本的争点は、大麻が、「大麻汚染」や「麻薬」と評価されるものなのかどうか?ということである。
第2。「受信契約に基づく請求」についての審理も不十分であり、また理由も不備である。
1。原判決は、「本件受信契約に基づく請求」について次のように判断した。
「原告浅田、同沼倉、同藤井の受信契約に基づく請求について
右原告らは、被告との間の受信契約に基づいて別紙誓約書の交付を請求しているが、このような請求権が、受信契約中のいかなる契約文言に基づくものであるのかについて何ら主張立証しない。よって、右原告らの右請求は主張自体失当であり、受信契約の存否などにつき 判断するまでもなく、排斥されるべきである。」
2。しかしながら、控訴人(原告)沼倉が被控訴人と受信契約を締結していることは、被控訴人も認めているので、争いの無い事実である。そして、この受信契約は、放送法にもとずいて締結されるものであるから、被控訴人が放送法を遵守することは、受信契約上当然の前提である。従って、本件番組が放送法に違反しているのか否かにつき審理をするべきであるのそれをしていない。
第3。「取材時の合意違反」についての事実認定も誤っており、また理由も不備である。
1。原判決は、控訴人(原告)丸井の取材時の合意違反を理由とする民法四一七条、七二二条に基づく請求について、次のように判断した。
「原告丸井の主張は、本件取材時に、被告担当ディレクターの原との間で、幅の広い見方で制作に臨むこと、放送法の諸規定を遵守することを約束したにも関わらず、被告は右合意に反する内容の本件番組を放送したとして、債務不履行又は不法行為に基づき、別紙誓約書の交付を求める趣旨のものと解される。しかしながら、甲一四によれば、原が原告丸井に対し、平成八年三月七日、本件取材の趣旨を説明するに当り、「以前、NHKの番組取材でトラブルがあったとのことですが、今回も番組内で直接先生のご意見を紹介できるかといえば難しいとしかいえません。しかし、通り一遍の紋切り型の認識で制作、取材にのぞむよりも幅の広い見方でのぞみたいと思い、御相談した次第です。是非御一考いただいて御連絡いただければ幸いです。」という文面のFAXを送信したことが認められるところ、右の表現は、番組制作の基本的方針や心構えを表明し取材を申し込んだというに止まり、これをもって、被告が原告丸井に対し、放送すべき本件番組の具体的内容又は事項等について約束したものと評価することはできず、他に、被告が一定内容の放送をなすべき債務を負担したとの事実を認めるに足りる証拠はない。」
2。原判決の事実認定および判断は、全く納得できない。
被控訴人は、原判決も争いのない事実として認めるように、テレビジョン放送等を行うことを業務として、放送法に基づき設立された法人である。従って、被控訴人は本件のような取材などそのすべての業務の遂行過程において放送法を遵守することは、当然の前提である。もし、仮に被控訴人が放送法を遵守しないのならば、控訴人丸井は、本件取材には、応じなかったものである。現に、控訴人丸井は、以前NHK教育TVの取材に応じたが、その番組の表題が「若者をむしばむ大麻」とされ、第2東京弁護士会人権擁護委員会で被控訴人の報道姿勢が問題にされた経験があるので、その事情を話して本件取材を一度は断ったのである(甲16・17・18号証参照)
「ーーーしかし、通り一遍の紋切り型の認識で制作、取材にのぞむよりも幅の広い見方でのぞみたいと思い、御相談した次第です。是非御一考いただいて御連絡いただければ幸いです。」との担当記者のファクスをみて、大麻を一方的に麻薬扱いにするということはない、ましておや番組の表題に「大麻汚染」という文字が入ることはないと判断して取材に応じることにしたのである。そして、現実の取材における担当記者との話の中でも、大麻を一方的に麻薬扱いにしたり、さらには表題が「大麻汚染」という様になるという話は、全く出てこなかったものである。